は、また何処かへ飛んでいった。すると俺は、自分自身が雀になって、自由に空中を飛び廻ってる気がした。それは何とも云えない自由な晴々とした気持だった。
B――その雀は俺も見た。そして俺はその雀が飛び去った後で、危く涙をこぼしそうになった。生きているうちにあの雀を再び見ることがあるかしら、とそんなことを思うと、世の中が暗くなるような気がした。空を仰ぎ、日の光を見、小鳥の声を聞くのは、俺が……この俺自身がそうしてるので、俺より他のものではない。俺があって初めて世界があるのだ。俺がなかったら、世界も何もありはしない。否、あってもないに等しいものだ。そういう俺が今死にかかっている。もう余命幾日もないだろう。何ということだ。俺は生きたい、いつまでも生きていたい。
A――死と共に一切が亡びてしまうことは、俺にとっても同じだ。ただ俺は、生きるも死ぬるも、どちらだって構わない。そんなことは俺の知ったことではない。生きてる間は甘んじて生き、死ぬる時には甘んじて死ぬ、それが俺の態度なんだ。
B――俺は生死を自分以外のものに任せたくない。自分の意志で生き、自分の意志で死にたい。生きることも死ぬることも、完
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