石とは、全く一体をなすものです。だから、苔が生きてるのか、石が生きてるのか、分らなくなりますよ。またそういう石でなければ、ねうちがありません。箱にしまいこんだ石を、一年も二年もたってから取出して、水をそそいでやりますと、その肌から、苔の美しい緑色がふいてきますからね、話をきいただけでは誰だって不思議に思いますよ。その不思議な、苔の生命というか、石の生命というか、そいつを見ていますと、逆に、人間の生命なんかつまらないものに見えてきますよ。わずか、これっぱかしの石ですがね……。」
この言葉は、私の頭に残ってるから書くだけのことで、それがB君の哲学だったわけではない。彼はもっと近代人であって、ただ、盆栽芸術の趣味といったようなものがどこか身についていた。
年齢は三十五歳ほど、腺病質な痩せた蒼白い男だった。大きな陶器商の長男で、もうその主人だったが、未だに独身だという点に、何かの影があるらしかった。学生時代に文学が好きだったとかで、時々文学の話をもち出して、その時ばかりは私は彼を嫌いになった。だが、私が陶器の話をはじめると、彼は嬉しそうにいろんなことを聞かしてくれた。一体、自分の職業に関す
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