の発作が静まって、少し落付いてから、澄子はなおくすくす残り笑いをしながら、今井との対話を話してきかした。
 辰代はじっと聞いていた。今井が嘘を云ったことについては、さほど怒りはしなかったが、愛のことになると、むきになって腹を立てた。澄子は喫驚した。
「まあ、可笑しなお母さんだわ!」
 辰代は澄子の云うことなんかは耳にも入れなかった。
「失礼にも程があります。人の娘に向って、それもほんの子供に向って、何というぶしつけな厚かましいことでしょう。お父さんが亡くなられてから、人様をお世話していますが、それほど踏みつけにされるようなことを、私はまだ一度もした覚えはありません。嘘をついて人の家にはいり込んできておいて、こちらで親切にしてやれば、図々しくつけ上って、何をするか分りはしません。私は何も道楽でこんなことをしてるのではありませんよ。払いも満足に出来ないくせに、何ということでしょう。眼に余ることがあっても、お気の毒だと思って、随分親切に尽してあげたつもりです。それなのに恩を仇で返すようなことをされて、いくら私でも、もうそうそうは辛抱出来ません。とっとと出て行って貰いましょうよ。出て行かなけれ
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