また、膝の拳固をぎゅっぎゅっとやった。「あなたは私に、ただ友達としての感情で対していられるのですか、それとも、異性としての感情で対していられるのですか。」
「まあ! 私そんなことは……。」
「聞かして下さい。本当のことを聞かして下さい。」
「だって、私、そんなことは考えたことがないんですもの。」
「考えたことがないんですって! でもあなたは、もう来年は女学校を卒業されるんでしょう。そして、やがては結婚もされるんでしょう。愛という問題を考えたことがないんですか。」
「ないわ。」
「本当ですか。」
「ええ。」と澄子は力無い返辞をした。
「嘘です。そんな筈はありません。私はあなたを、中村さんのように子供扱いには出来ません。私はあなたに対すると、ただの友達としてではなく、異性としての感情に支配されてきます。そして、いつもあなたのことばかり考えているんです。」
「だって私……。」
そして暫く沈黙が続いた後で、澄子は何かぞっとして顔を挙げると、今井は眼に一杯涙ぐんでいた。
「あら、どうなすったの?」
今井は黙っていた。
「御免なさい。ねえ、私|謝《あやま》るから……。」
「謝ることなんかありま
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