な怒鳴り声がしたので振向いてみると、両方立上って殴り合おうとしてるんです。と思ううちに、その不良青年らしい方の一人が、相手から先を越されて頬辺《ほっぺた》に拳固を一つ喰わせられましたが、一足よろめきながら、側の卓子の上にあった空《から》のビール瓶を取って、向うの奴の脳天から打ち下したんです。ビール瓶はそのまま壊れもしないで、相手の男はばったり倒れてしまいました。よく見ると、頭の鉢が割れて、血がどくどく流れ出してるじゃありませんか。」
「まあ、本当?」と澄子が声を立てた。
「本当ですとも。私は喫驚してしまいました。空のビール瓶で、それも瓶がわれて、割れ目で切れるとかなんとかなら、まだ分っていますが、丸のままの瓶で、頭蓋骨を叩き割るというのは、いくら腕が冴えていたって、一寸考えつかないことですよ。」
「然しそれは、ただ皮膚が破れたばかりではなかったのですか。」と中村が云った。
「いえ確かに頭蓋骨がわれたんです。頭の形が変梃になって、傷口から石榴のようなぐじゃぐじゃなものが見えていました。」
「そして。それからどうしました?」
「その男が倒れると、カフェー中の者は総立ちになりました。がその隙
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