向平気なんだ。二人が愛し合ったら、面白い……そうだ、面白いとさえ思っている。それだけのことです。それがどうして分らないのかしら。みんな僕を誤解してるんだ。島村さんまで僕を誤解してるんだ……。」
そんな風に彼は私に説きたてるのだった。だが、本当のところは、私にもよく分っていない。この人形云々のことは、私達の間では当時有名な話だった。清子が盲腸の手術で二週間半ばかり入院していた時、宮崎は毎日人形を一つずつ買って見舞ってやった。盲腸の手術などは、外科医術の進歩してる今日では、腫物をつぶすくらいにしか当らないと、いくら云いきかせられても、清子はまだ安心出来ないで、病室の白壁に涙ぐんだ眼を見据えていた。手術がうまくいくか否かということよりも、自分の腹部が――肉体が切り裂かれるということに、直接の恐怖を覚えているらしかった。だが彼女のそうした気持などは、宮崎は一向に推察しようともせず、絶対安全の呪禁《まじない》をしてあげると云った。その呪禁というのが、毎日一つずつ人形を買っていってやることだった。一月末の寒中で、北風が吹き荒れることもあり、氷雨が降ることもあった。然し宮崎は、一日も欠かさず、人形
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