ら、手を握りしめた。
「清ちゃん、お燗よ。」
おけいはやたらに清子を使った。彼女は長尾の側に坐って、猫のような手附をしながら、しきりに饒舌りたてていた。
私は島村に、金の都合がついたのかと聞いた。つかないが、済んだ、と彼は答えた。都合がつかないが済んだ、その言葉が謎のように長く私の耳に残った。
野口は芸者相手に、サンドウィッチの話をしていた。彼は三十幾種かを知っていた。牡鶏のとさかのはとてもうまいが、拵え方が下手では食えないそうだった。
宮崎が静葉の膝にすがって泣いていた。訳の分らないことを呟いていた。ふいに、だめよ、と静葉は叫んだ。と同時に、そこは室の上り口で、宮崎の身体は土間に転げ落ちた。なかなか起上らなかった。
「あら、御免なさい、どうかしたの……。だめよ、人の乳をつっつこうとしてさ。」
あやまるのとおこるのと半分ずつにして、静葉は助け起そうともしなかった。
宮崎は起き上ると、ふらふらと、島村の首にすがりつきにいった。
「強いね君は……ようし、僕と相撲をとろう。」
野口の癖が始ってきた。
「およしなさいよ、また……。恐《こわ》いわよ、静葉さんは。向う見ずにひっぱたく
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