けていた。あれきり島村に逢わないので、少々気になっていたのである。注意してると、静葉は島村からことずかって勘定を払いに来たものらしく、またおけいは、島村に逢いたいことがあると頼んだらしい――多分宮崎のことについてだろう。私は肩の荷が軽くなるのを覚えたが、また不安にもなった。
 静葉はやがて私達の方へ来た。彼女はいつ見ても少しも変らなかった。顔のわりに眼も鼻も口も小さいので、少し痩せたらもっと綺麗になるだろうと思われるくらいに肥ってる、大柄なぱっとした女で、あけすけで、影もなく、底もなく、捉えどころがなく、そして朗かで、そのくせ調子に一寸険のある女だった。彼女をよく見ていると、どんなことでもやりかねない危険さが感じられた。
「あたし今日はお客よ。」
 そして彼女は杯を斜に取上げたが、すぐに、他の芸者たちと、そして殊に清子と、内緒話を初めた。
 島村が間もなくやってきた。彼は私達の方を見やって、一寸眉をひそめたが、黙っておけいの方へ行った。だいぶ長く話していた。
 私達の方へ来て、一通り会釈をする時、彼はなぜか顔をほんのり赤らめた。静葉が立上っていって、彼と何か囁き合った。彼は静葉のあとの
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