あった。それでも、もう随分と匙を投げたくなることがあった。彼はいつも私に借金の奔走を頼むのだった。静葉のことではない、外のことだ、と彼は云ったが、それはどうやら本当らしかった。然し何のために金がいるのかは打明けなかった。そして金額も、時によって大小さまざまだった。その上、いつも期限が切迫していて、一週間以内とか五日以内とかだった。私は自分の知人や彼から名指されたところを奔走して廻った。成功したのは一回きりだった。暫くたつと、彼はまた至急の金策を頼むのだった。不成功に終っても、別に悲観したような顔はしなかった。私には次第に彼の真意が――真相が――分らなくなった。尋ねても、彼はよく説明しなかった。それだけの金があればさっぱりしてしまうんだ、と云うきりだった。最後のは、可なりまとまった金額で、半端ならいらない、十日間のうちに頼む、というので、私はいろいろ物色した揚句、平素疎遠にしてる遠縁の実業家のところへ、極り悪い思いをしながら当ってみたところ、てんで問題にされずに、悲観してるところだった。
そういう場合だったので、島村が珍らしく……といっても私達の仲間に比べて珍らしく、「笹本」に姿を見せ
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