容な小肥りの長尾と、表向きは保険会社員だが、あらゆることに首をつきこみたがってる、色の浅黒い筋骨の逞ましい大西とは、好箇の対照だった。だが彼等には共通の取柄があった。人の精神状態は、その生活状態に依るものであり、従ってその経済状態に依るものであるという、本能的な意識と、快楽は一人で味うべきものではなく、大勢で味うべきものだという、放埓な認識とである。そしてそのいずれもが、個人主義の範囲内に止っているので、彼等はやはり酒でも飲まなければやりきれないのであろう。私はこの点を彼等に許してやりたい。それで、彼等が島村のことを危ぶむのも、尤もだと思うのだった。島村の経済上の破綻は、やがてその精神上の破綻となるかも知れないし、彼が我々の間から失踪して、静葉と共に隠れるのは、情意の不健全を証するものかも知れなかった。要するに、彼等はもう島村を信用していなかった。島村はただ没落過程を辿っているものと思われた。そして、斜面を転り落つる石については、ただ見送るより外に方法はない。なまじい、手を出せば、自分の手を傷つけるばかりだ。而も島村はかなり大きな石だった。然し、私は心の底で、まだ島村を信じてるところが
前へ
次へ
全38ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング