よう。理由は既に世界に曝露されている。そして結果としての廃墟が吾々の眼前に拡がっている。ただに日本ばかりではない。日本の文化的師友だったヨーロッパも既に廃墟である。日本と文化的血縁の濃い中国も、既に荒蕪している。
この廃墟の上に、新たな文化を建設しなければならないのだ。建設するその精神は、前述の建築家の精神の如きものであらねばなるまい。繰り返して言えば、人間としての矜持ある逞ましい美しいものであらねばならぬ。
ところでこの精神は現在、周囲に如何なることを見るか。
軍国主義、官僚主義、封建主義、利潤主義、すべてそれらの貪欲な独善的なものが、相次いで倒壊されつつある。やがては完全に倒壊されるであろう。これで文化建設への地ならしは出来るであろう。然し、この地ならしの過程に於て、真の建設精神は、恐らく次のように呟くかも知れない。
――反文化的な貪欲な独善的なものが、すべて崩壊しつくすことは、実に慶賀に堪えない。然るに、この崩壊を指導しつつあるアメリカについて、人々は何を見ているであろうか。高度に発達した文明と、莫大に蓄積された富と、生活の安易など、それらのものばかりを眼に留めていはしないか。もしそうならば、最も重大なものを見落してると言わなければならない。若いアメリカが持っていたもの、今もなお持ち続けているもの、所謂辺境精神、一種の清教徒的精神、独立戦争を指導した自由の精神、そういう理想主義的なものを、見落してると言わなければならない。そしてこの理想主義的なものこそ、真にアメリカを支えているものであって、これがなければ、如何なる文明も富も民主主義も人間の堕落を招来するだけであろう。
――アメリカのこの理想主義的なものを見落すことによって、人々は、政治的にアメリカから指導されつつある日本の現状について、誤った考えを懐いていやしないか。殊に、嘗ての日本の軍部に阿諛した態度そのままで、連合軍司令部にただ阿諛しようとする人々は、そうではあるまいか。先ずそれらの人々に問い質したいことがある。
――ゆっくり言うのは面倒だから、直截にやっつけよう。以前、士族と平民との区別が撤廃された時、諸君は恐らく、それらすべての人が平民になったように考えはしなかったか。だが、それらのすべての人がみな士族になったのだと考えては、なぜいけないか。そう考えるべきではあるまいか。ところで今回、華族
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