れだけは残存するであろう。

 私見は、普通の説とは少し距りがあるかも知れない。それも、私が亀を愛するからであろうか。
 亀を静かに見ていると、私自身も亀の仲間入りをした気持になってくる。亀には少しも人を反撥させるものがないのだ。そして私は、今庭にいる以外のもの、少くも東洋近傍にいるものをみな飼いたくなる。まる亀ややま亀やしな亀は固より、海に住む大きなもの、あか海亀やあお海亀をも飼いたく、美しいたいまいをも飼いたい。亀を愛する気持からして、私が今かけてる眼鏡のふちは、たいまいの甲羅からとれる鼈甲にしている。
 すっぽんだけは少し危い。鋭い歯を具えていて、喰いついたなら雷が鳴らなければ離さないと云われている。だが、このすっぽんの親方について、日本にはいろいろの面白い民話がある。その中で一つ、柳田国男氏が書かれているのを、茲に大略借用すれば――

 昔、美濃の大垣から一里ほど東の中津という村で、古池の水をほして、非常に大きなすっぽんを捕ったことがあります。その人が之を肩に荷うて、大垣の町の魚屋へ売りに行きましたところ、途中である大池の堤を通る時、池の中から大きな声で、おい何処へ行くぞいと云
前へ 次へ
全40ページ中38ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング