」と鸛はくれぐれも注意しておきました。――そのようにして、亀は二羽の鸛の間に木の枝に口でぶら下りながら、すばらしい空中の旅を楽しみました。ところが、ある都会の上にさしかかりますと、その珍らしい空の旅人たちを、大勢の人々が見つけて、ひどい騒ぎになりました。――「おかしな亀だ。」――「ふざけた亀だ。」――「亀の王様だな。」――「そうだ、亀の王様だな。」――わいわい騒いでる声が、亀のところまで聞えますし、やがて亀にも、みんなから笑われてることが分りました。亀はとうとう辛抱しきれなくなりまして、「そうだよ、俺は亀の王様だよ、どうして王様ではいけないんだ!」と叫んでやるつもりでしたが、その最初の一言を云うために口をあけたとたんに、木の枝から離れ、まっすぐに地面に落ちて、甲羅もなにもかもくしゃくしゃに砕けてしまいました……。
私見――この話のなかの亀は、無謀な野心家で、遂には亀らしくもない短気のために身を亡ぼしてしまったが、それはどうでもよく、あの重い身体で空中旅行を夢みるところだけが真実である。その夢想は、小池のふちの石の上で甲羅を干してる折などに、熱くはぐくまれるもので、たとえ身が亡びてもそ
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