と叫びました。すると、河の両方の岸に、同じような亀の首がでて、「もうここに着いてるよ、」と同時に云いました。そして烏から見られると、両方とも、眼をぱちくりやって、首をちぢこめ、こそこそと水の中に隠れてしまいました……。
 私見――この話のなかで、亀は狡猾な者となっているが、その狡猾さも一種ユーモラスな気味に包まれ、相手を見くびった不敵な大愚とでも云うべきものが目立つのは、亀がおのずから持つ徳の然らしむる所であろうか。結果から見れば策略の失敗だが、他から見て相似た二匹の亀であるところに、失敗は救われているのである。

 第三の寓話――
 印度のものであるが、内容はイソップの亀と鷹の話や狐と烏の話などと相通ずるものである。
 小さな池に住んでいました一匹の亀が、その池に時々来る二羽の鸛《こうのとり》から、いろいろ旅の面白い話をきかされて、自分でも空を飛んでみたくなりました。そこで、鸛にむりに頼みまして、木の枝を一本もってきてもらい、自分はその真中を口でくわえてぶら下り、枝の両端をそれぞれ鸛がくわえて、そうして空中の旅をすることになりました。「地上におりるまで決して口をあけてはいけませんよ、
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