によって、全軍の意気は俄に揚った。イブン・サウドの手兵は元より各地からの部落兵等も、感嘆し、喝采し、勇躍した。まさしくイブン・サウドこそは男の中の男である。陽物を失って男でなくなったとは嘘である。それのみならず、重傷を負いながらも恋人の務めを立派に果すことの出来る超人だ。そうした賞讃の念は信頼の念となり、この驚嘆すべき男、吾等の指揮者のためには、命を捨てても惜しくなく、砂漠の果までも従って行き、如何なる敵とも戦おうと、全軍は勇み立った。
斯くて、イブン・サウドの素晴しい芝居はみごとに効を奏したのだった。――(以上、アアムストロング著、古沢安次郎訳、「イブン・サウド」に拠る。)
この素晴しい芝居の時、イブン・サウドは固より独身ではなかった。遠い居城には愛妻ジオハラがいた。彼が真に愛した女はジオハラ一人だろうと云われている。然し彼はその生涯中、多くの女と結婚した。但し同時に四人以上の妻を持ったことはなかった。彼は敬虔な回教信者で、予言者の定めた戒律を厳重に守ったのである。モハメッドは次のように規定している。
「汝は二人、三人、或いは四人の妻を娶るも差支なし。されどそれより多くは娶るべか
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