紛らすための娯楽偸安の具として作品を読む多数者のことは、茲では取上げないことにして、ただ、作品のうちに何等かの精神的拠り所、即ち広い意味で一種のモラールを求めてる人々のことを、考えてみたいのである。彼等は文学鑑賞の愉悦を知らないわけではあるまいが、それを楽しむだけの余裕を持たず、もっと直接に、現在の激しい事態のなかに於て、自分の精神を支持したり鞭打ったり、導いたりしてくれるもの、または希望を与えてくれるもの、直接的なモラールを要求しているのである。島木健作氏の「生活の探究」の読者のうちの善い者は、そういう読み方をしているだろう。――こういう読み方は、一方では文学を進展させる動力となると共に、他方では文学を混乱させる素因とならないとも限らない。
 作家の方でも、現代では、右のような読者の要求に応じたい意図を多分に持つことは、現代文学の性質上、当然のことであろう。そしてそういう意図の上に、私の所謂文学のプラス的なものの自覚が加わって、茲に、換言すれば、作家の側でも文学の観念が変ってきた。世に宣伝されてる国策文学などの影響のことを云うのではない。固より、その影響も或る方面には多少あるかも知れ
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