雨の日を歓迎して、そして仕事をするようなことは、文学を益々曇天ならしむるばかりである。――とこう云うのは、勿論比喩的な云い方であって、作者には各人各様の仕事癖があろうけれど、作者としての心境が右のようなものである限りは、文学は決して日向に出るものではない。そして茲で云いたいのは、文学の前方に立ちはだかって大きな影を投じてるものを、つきぬけるか打ち倒すかするだけの意欲を、文学者自身も持つべきであるということである。そうしてはじめて、文学にも溌剌とした息吹きがこもってくるであろう。
そして文学に於いて問題となるのは、この意欲の表現の仕方だけである。このことについて、蛇足ながら――というのは、文学を文学たらしむるために――一言つけ加える必要がある。
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文芸のために生涯を捧げて黙々と歩み続ける人々の努力には、真に涙ぐましいものがある。そして、よい作品を書くということだけが、彼等の目的の凡てであって、他事は敢て問わないようにも見えるばかりでなく、例えばバルザックやドストエフスキーのような作家にあっては、時として馬車馬のように駆り立てられ、ただ書かんがために筆を走らせたような点さ
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