実際、何等かの権力的統制の過重なしには、自由主義は唱導される理由を持たないであろう。
 然るに、この自由主義はそれ独特の正義観から、或る機縁を与えらるれば、火となって燃え上る可能性を持っている。自由主義の発生地は、社会のインテリ層である。インテリ層は、最も早く火を引き易い可燃層である。持続的な実行力は弱いが、一時的な爆発力は強い。フランスの大革命も、ロシアの革命も、また近くは我国の明治維新も、そのことを吾々に示して呉れた。そしてこのインテリ層が火を引き初めるや、その自由主義はもはや自由主義ではなくなる。一躍反対物へ転化してしまう。
 自由主義のインテリ層が、如何なる機会に火を引くか、そして如何なる火を引くか、それが問題なのであって、統制者側の最大の関心注意は、そこにある筈である。
 一の権力的統制が、自己を強度に確立しようとする時、危険なインテリ層の火を、或は一挙に踏みつぶすこともあろうし、或は長くぶすぶすとくすぶらせることによって、やがて死灰になすの方策を取ることもあろう。前者を覇道とすれば、後者は王道である。だがいずれも、万一の危険は覚悟しなければならない。そこで、最も安全な道を選
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