新たな思惟、新たな言葉、新たな行動などの、萠芽的な断片的なものに今は過ぎないが、それらの孰れかが成長する時、その人の形態は特殊なものとなり、特殊な性格として出現するだろう。
 拡大されたその特殊な性格は、破綻なしに多くの思想や情意を容れ得るであろう。容れ得なくて破綻しても、元来この種の悲劇はむしろ歓迎すべき性質のものである。
 原子爆弾を象徴とするこれからの時代に、文学は、取り残されないだけの自己主張をしなければならない。予想されるこれからの時代は、或は人間を精神的狂乱に駆り立てるかも知れない。この精神的狂乱に対抗する有力な強壮剤の一つたる資格を、文学は過去の名誉ある伝統にかけて獲得しなければならない。
 このためには、来るべき新たな可能性と驚異との世界にも挺身出来る、強健な構想力を持たなければならない。急激な科学の発達に対して、文化の滅亡が警告されたのは、つい昨日のことであった。明日は科学は更に急激な発達をなすであろうし、今日から既になしつつある。然し文化は滅びないであろう。対抗の武器として、更に、統御の機能として、吾々は各方面に強健な構想力を持つであろう。科学の発達そのものすら、つ
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