ますよ。姐さんの寝顔なんか、倦きるくらい見ていらっしゃるじゃありませんか。」
私は言い進んだ。――ほんとのところは、ひとりで眠ってる照代の顔が見たいんだ。側に誰もいず、ただひとりきりの、その寝顔が見たいんだ。それほど真剣に、照代が好きになってきた。一日でいいんだ。そしたらすぐに、黙って帰るよ。この気持、分るだろう。頼むよ。
「そりゃあ、姐さんもあなたが好きですよ。」
お多賀さんは突然別なことを言い出して、私の顔をまじまじと眺めた。私は顔の赤らむ思いがし、そして、へんに惨めな気持ちになった。
私は下向いて、黙りがちになった。お多賀さんの方で、いろんなことを饒舌りだした。いつのまにか立場が変って、私にあれこれと注意をする。結局今晩でも宜しいときまった。お座敷をつけて照代に逢い、遅くなってから、私が一足先に帰る。照代もすぐ家へ帰り、たいてい、いつもの通りじきに寝てしまうだろう。いい頃を見計って、表の戸の間に、お多賀さんが半紙をはさみ、端っこを少しのぞかせておいてくれる。それを見て、私が指先で軽くノックすれば、お多賀さんが戸を開けてくれる。あとは成り行き次第だ。
然し、私はその通りには
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