従いかねた。すぐその晩は照代に逢いたくなかった。間合いがわるいのだ。数日の間を置いて、そして寝顔、いや、夢、とならなくては、私の心にぴったりとこないのである。
私はお多賀さんと別れてから、ひどく長いように思われる時間を過した。寄席にはいってみたり、映画館はいやになってすぐに飛び出し、酒を飲んだり、球撞きをしたり、夜店をぼんやり眺め歩いたり、なにやかや、自分でも忘れてしまった。心がめいり、ますます惨めな気持ちになった。
この心気の銷沈は、私には思いがけないことだった。失恋に似た感じだ。初め私は、ばかげた悪戯をしてるような気がしたり、真剣な試みをしてるような気がしたり、へんにちぐはぐな思いだったが、その両者が分裂したまま、次第に両方へ離れてゆき、中間に空虚が出来て、その空虚の中に私は陥っていった、とでも言おうか。何もかも取り失った感じなのだ。
うっかり、真意に近いことを饒舌り、急に、お多賀さんから同情されたらしいことも、私の惨めさの原因だった。お多賀さんの同情は、却って、照代を私から遠くへ引離してしまった。
私はひどく疲れた。立ち止って、暗い水面を眺めていると、こんな時に人は投身入
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