低いが体躯[#「体躯」は底本では「体駆」]のがっしりした女で、顔が広く、眼も鼻も口も大きく、頑固だが善良なのである。
 私はさりげない風に話しだした。――酒飲んでばかりいてもつまらないから、何か思いも寄らないことをして、びっくりさせてやろうと、照代と約束した。そこで、旦那が来る日は困るが、お多賀さんのはからいで、家の中にこっそり隠れさしてはくれまいか。夜中に出ていって、照代が眠ってるところへぬっと顔を出し、あっと驚かしてやりたいのだ。
 そんなこと、彼女には可笑しくも面白くもないらしい。
「旦那の方は、家へはあまり見えないから、構いませんが、そのような悪戯は、いけませんねえ。なにしろ、女ばかりですからね。」
 私は言い足した。――女ばかりだから、なお面白いのだ。事によっては、覆面でもして、強盗の真似をしてもよい。
「縁起でもありません。いけませんよ。」
 私は言い直した。実は、おどろかすのはどうでもいいんで、照代の寝顔がちょっと見たいんだ。女というものは、起きてる時と眠ってる時とは、ずいぶん顔立が違う。照代もたぶんそうだろう。それをちょっと見たいんだ。
「ご冗談でしょう。よく知っており
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