いろいろな人を夢の中に呼び出したのであるが、それらの夢の中で、どういうことが起ったか、或は何も起らなかったか、所詮は夢のことだから、茲に述べるにも及ぶまい。然し、やがて妙なことになってきた。
 こんどは、私自身が夢みられてるのだ。彼女が、はっきり言えば照代が、私を夢にみてるのである。瞼をほんのりと赤らめ、かすかに酒の香のする寝息で、すやすやと、真赤な箱枕に頬を押しあてて眠りながら、私を夢にみている。夢の中の私は、彼女の枕頭に坐って、酒の酔いに、上体をふらふらさせ、それでも、こそとの物音も立てず、眼は半眼に閉じ、いつまでも坐りつくしている。何かしきりに言ってるようであり、彼女も応答してるようだが、どちらの言葉も声には出ない。しんしんとした肌寒さだ。その雰囲気が、さっと乱れて、なにか兇悪なものとなり、照代はぱっとはね起きた。――とたんに、私の夢は消えた。
 私は瞼を開いたが、二燭光の電球が瞳にしみ、また瞼を閉じた。瞼の裡に、不吉な不安なものが残っている。それに逆らう気持ちで、逆にそれを追っていると、うとうと眠ったらしく、また夢をみた。同じく、照代が私を夢みてるところを夢にみた。どういう場面
前へ 次へ
全21ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング