あなたが、そばにじっと坐っていらっしゃるの。いつまでもじっと坐っていらっしゃるから、あたし、声をかけようと思ったけど、どうしても声が出ないでしょう。息が苦しくなってきても、声は出ないし、身動きも出来なかったわ。それでも、あなたがそこに坐っていらっしゃることは、はっきり分ってるし、ありありと見えてるの。それでいて、どうにもならないから、むりやり暴れようとしたら、あの騒ぎでしょう。苦しかったわ。もうあんなこといや。なにか、催眠術とかなんとか、いたずらなすったんじゃないの。」
「そんなことはしないよ。然し、君が言ったことは、そっくり、本当のことだ。」
「本当のことって、何が。」
私は大きく息をついた。
「すっかり本当だ。君は眠っていながら、眼をぱっちり開いて、僕を見たよ。」
彼女はびくっとしたようだ。
「嘘、嘘よ。そんなこと、ありゃあしないわ。」
「本当だよ。君は眠りながら眼を開いて、僕をじっと見ていた。その君の眼を、僕もじっと見ていた。」
「あら、ほんと?」
彼女は私の眼を見入った。
「怖い。」
炬燵の横手からずり寄ってきて、私の肩に縋りついた。
「ほんとなの。怖いわ。」
「本当さ
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