軽い頭痛がし、腰から足がだるく、身体違和の感じだった。口を利くのも懶い気で、しきりに私は彼女の顔を眺めた。彼女は私の眼を見返した。
「あなた、なんだかへんね。どうなすったの。」
 私は微笑んだ。苦笑の形になったのだろう。
「どこか痛みますの。」
 私は頭を振った。
「なにか、あたしに、お話があるんじゃないの。」
「話なんかないよ。こうして酒を飲んでおれば、それでいいじゃないか。」
「そう。そんならいいけれど……。」
 間を置いて、どうしたのか、彼女は俄に私をじっと見つめてきた。
「なぜ?」
 独語のように何かに反問して、私の言葉を待ってるらしい。
「君は、夢をみることがあるかい。」
「夢……めったにみないわ。」
「僕のことも?」
「ええ。なぜ?」
「おかしいなあ。僕のことを夢にみた筈だが……。」
「いいえ、夢ではなかったじゃないの。でも、びっくりしたわ。」
「夢ではなかったって……なんだい、それは。」
 彼女はしばらく考えていたが、ちらと眉根を動かした。
「やっぱり、夢だったのかしら。あたし、いい気持ちに眠ってたのよ。どこか分らないが、宙に浮いてるようで……それが、この室なの。すると、
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