が明示するような壮挙によって、飛行機の実効的性能が市民の心に感銘されたからであろうが、然しなおその上に、飛行機というものが、勇敢な行動性を象徴するものとなり、一の思想の域にまで高まったからであろう。即ち、勇敢な行動性の最も具象的なものが、現在では飛行機なのである。
 一般市民の、殊にはインテリ階級の、飛行機に対する関心は、だから、一種のスリルと飛躍とを持つ勇敢な行動性への翹望とも見られる。かかる翹望が窒息しない間は、大都市も老朽しないであろう。このことは、戦争の面以外への拡がりを持つ。

      E

 汽車の内部の光景――殊に、宵に発車する長距離の急行列車で乗客の多いものなどの内部の光景には、考えさせられるものがある。例えば、東京駅を宵の八時か九時頃に発車する神戸行とか下関行とかの、急行列車をとってみるがよい。そして三等車よりも二等車が最もよい。
 これらの列車は、いつも乗客がこんでいる。然るに、東京駅で乗りこむが早いか、直ちに二人分の座席を占領して、長々と寝ころび、枕まで持出している者が、随分ある。それ故、品川や横浜あたりで乗車した気の弱い者は、時とすると、座席がなくて長く立た
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