間のかかるマニキュア、そういうものを考え合せれば、洋装は一種のおしゃれであることが分る。日本髪の芸妓が少くなり、お座敷で雛妓が蓄音器に合せて流行小唄を踊り、カフェーやダンスホールが繁昌する時だから、おしゃれの洋装が銀座街頭を濶歩するのも、無理からぬことかも知れない。
 然しながら、他の種類の洋装が、既に日本の女の身体にほぼついているのに、この種の洋装のみが、何故うまく着こなせないでいるのであろうか。外でもない、単におしゃれだからである。こうしたおしゃれが身につかないということは、ハイカラなめかしやの悲哀であろうが、この種の悲哀が深いほど益々社会は健康であろう。

      C

 銀ブラということは、数年前からの流行語であり、銀座というところは、東京の名所で、地方から来た人は、デパート三越などと共に銀座を見物するようになった。これは、東京で銀座が最も都会的だということからの、おのずからの結果であろう。そしてこの、最も都会的だということは、最も街頭的だということのようである。
 どうしてそうなったかは問わないとして、銀座は実際、他の何処よりも街頭的な感じがする。試みに、銀座で何か買物を
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