務服としての洋装は、大抵、既にしっくりと彼女等の身についているし、必要なものでさえあり、少しも不自然ではない。女学校の制服と似たものである。
 次に、個人的好みからの、そして行動の便宜からの、洋装がある。野球場や、映画館や、新劇の劇場や、用達しの急ぎ足の街頭などに、そういう簡素な洋装が見られる。これはまだ、前のものほどしっくり身についてはいないが、然しひどく不自然ではなく、そして幸なことには、若々しい元気が見えており、実務的行動の頼もしい匂いさえある。
 さて、それらのもののなかに、それらのものが多くなってきた故でもあろうか、他の一種の洋装が目立つのである。一言で云えば、おしゃれのためのそれであり、流行の先端を切ったつもりらしいそれである。そしてこの種の洋装はまだ大抵、彼女等の体躯ではこなしきれないでいる。
 女にとって、洋装は和装より簡単であろう。肌につけるものから順次に比較しても明かだし、和装の半襟や帯とその付属品一切の繁雑さを考えても明かである。けれども、この種の彼女等は、簡単なるがために洋装をしてるのではない。映画女優めいた丹念な顔の化粧、厄介なセットを要する毛髪のウェーヴ、時
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