、小料理屋やおでん屋などに立現われる、蒼白い若い男たちである。浅草や江東などに多い。
彼等の草履ばきは、昔のいなせな兄い連のそれと異るのは勿論、現代の大工や植木屋など、道具箱をかついでさっさとした足取りのそれとも、全く異るのである。そしてその足先は大抵よごれている。労働の泥ではなく、怠惰の埃をかぶっている。彼等がどういう生活をしているか、私は知らない。彼等は殆んど怒鳴ることなく、喧嘩することは更になく、酔っ払うことも少く、ひそひそと語り、ちびちびと飲んでいる。
その打明話はこんなことに帰着する。――解雇されないからぐずぐず働いてるようなものの、店はいつつぶれるか分りはしない。転業が問題になっているが、自分の転職も、さっぱり見当がつかない。そして、十時に街路は戸が閉り、街灯だけが明々として、電車の走ってるのも淋しく、何だか自分が世の中から取残された感じだ、云々。
商店法に依る十時閉店の街路は、多くの人には生活緊張の感を与えるものであろうが、或る種の人には、世の中から自分だけ取残されたという感を与えるものらしい。否、与えるのではなく、そういう感を受取るものらしい。そして彼等のうちには
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