せる」
 だんだんひどくなって、横《よこ》から吹《ふ》きつけてくる風を、マサちゃんは不平《ふへい》そうにながめて、それから決心して、目かくしをして歩きだしました。
 自分の足のくせと、横《よこ》から吹《ふ》いてくる風の力とを、マサちゃんは頭《あたま》において、けんめいにまっすぐに歩こうとしました。風は時をおいてさーっと吹《ふ》きつけてきました。
 ――風にまけてなるものか。
 マサちゃんは歯《は》をくいしばって、進《すす》んでいきました。
「ばかー……」
 おや、と思ったが、気のせいのようでした。けれど、またさーっと吹《ふ》いてくる風が、顔《かお》をなでて、目かくしのハンケチの下の耳もとで、
「ばかー、ばかー……」
 マサちゃんはがまんしました。
 それでも風は、また吹《ふ》きつけてきて、耳もとで声をたてました。
 もうしんぼうができませんでした。いきなりどなり返《かえ》してやりました。
「ばか、ばかー」
 風もどなりました。
「ばかー、ばかー」
 マサちゃんも声をはりあげてどなりました。
「ばか、ばかー」
 見ていた子供たちはびっくりしました。かけていって、マサちゃんをひきとめました
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