一人で笑い出してしまいました。作男はきょとんとしています。
 そして兎に角、若い豪い博士として向うの家に乗り込んで、顎骨の脱臼を直してやりました。美事な腕前でしたよ。
 御隠居はもうけろりとしています。家の人達は大変な喜びようです。酒樽の栓がぬかれる、鶏がつぶされる、芋の皮がむかれる……何でもかでも御馳走になってゆけというんです。僕もとうとう腰を据えました。十六七の、それは全く鄙に稀な綺麗な娘がいた……からでもありませんがね。
 その娘が、まるで十二三の子供同様に無邪気ではしゃぎやで、メリンスの着物をつんつるてんにきて、一人で家の中を飛びまわっています。僕は面白く思って、すぐに親しんで、それから人前では云われませんが、御隠居の※[#「臣+頁」、第4水準2−92−25]の外れたのが上か下かと途中で心配したことを話してきかせました。彼女にはその可笑しさが腑に落ちないようなんです。そこで、※[#「臣+頁」、第4水準2−92−25]の骨は上と下とが外れるので、どちらか一方が外れるのでないと説明してやりますと、初めてくすくす笑い出しました。
 それから彼女は何と思ったか、裏の方で鶏を料理してる父
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