親の方へ走って行きました。そして、お祖父さんの外れた※[#「臣+頁」、第4水準2−92−25]は下か上かと父親をからかっています。その声をきいて、僕は一人でしまったと思いました。するうちに、高い彼女の笑い声がして、暫くするとこう叫んでいます。
「下※[#「臣+頁」、第4水準2−92−25]が外れた、下※[#「臣+頁」、第4水準2−92−25]が外れた。」
 父親の叱る声がします。彼女のふざけてる様子が眼に見えるようです。と、不意にしいんとなって、それから一時に大勢の人々の叫び声がしました。
 僕はびっくりして、呼ばれるまでもなく走って行きました。見ると、彼女は高い縁側から、風呂場に通ずる踏石のその角のところへ、前のめりに落っこっています。口が血で一杯です。その口一杯の血をかみしめて、泣声をこらえています。
 余程ひどく打ちつけたと見えて、上の前歯二枚を折り、下唇に裂傷を受けていました。僕は一寸した外科用の道具を用意していましたので、応急の手当をしてやりました。そしておいて、もう御馳走どころではありません。こそこそとその家を逃げ出してしまったものです。

 その娘が、舞踏病の女の子の若い
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