とに失敗していて、財産どころか莫大な負債を持ってるのを知った。それで私は、学校を出るとすぐに自活しなければならなかった。先輩の紹介で学校の教師をし、傍ら創作をしていった。そしてなお金が足りないと、可なり向う見ずな借金をした。随分苦しい生活だった――今でもそうであるが。それでも私は呑気で且つ力強かった。莫大な負債を荷いながら呑気に落付いてる父の殿様然とした気質、それが私にも伝わっているようだけれど、然し父のそういう気質を思うことは、やはり私には力となった。負債なんかどうにだってなる、兎に角私は力強く働いている、という気持を父に伝えたかった。そして実際、次第に大きくなる負債のことは隠したが、俸給と原稿料とで立派に生活してると父へ云った。父は非常に喜んでくれた。もう心配はないとも云ってくれた。
私は力強く働き続けた。朝早く込み合った電車にゆられて、毎日出勤しなければならなかった。午後になって帰ってくると、頭も身体も疲れていた。それでも晩には、頼まれるままにせっせと原稿を書き、なおその上に飜訳までやった。実際いやになることが多かった。生活するために人はかくまで働かなければならないかと、人生が
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