父と子供たち
豊島与志雄
平時にあっては、父親は子供たちにとって、一種の大きな友だちであり、且つ、雨露をしのぐ家屋のようなものである。時々相手になってくれ、またじっとそこに控えていてくれる、それだけで充分なのだ。その影で、子供たちは彼等自身の世界を持つ。
休暇になって、何かの興にかられ、三人の子供たちだけで相談しあって、いきなり宣言する。
「お父さま、あたくしたち、今晩徹夜するのよ。」
「え、徹夜……?」
「みんなで、一晩徹夜してみることにきめたの。お父さまは?」
「お父さまは……さあ……。」
云いしぶってるのがおかしくて、父も子供たちも笑いだしてしまう。がそのあとで暫くして、子供たちは父を誘いにくる。
「お父さま、今晩、お仕事がおありですか。」
「なぜ?」
「今ね、きくやが、アイスクリームをそう云いに行ったの。お父さまの分も一つありますよ。だから、それがくるまで、トランプをするの。」
もうそれにきめてるという顔付だ。だから父もその通りになる。四人でトランプの遊びをして、アイスクリームを一つずつたべて……さてそれから先は、もう、父親は書斎に籠ろうと、寝室に退こうと、全く自由だ
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