は一種の感銘を受けた。それは、特殊な性格の人だとか、特殊な経験を積んでる人だとか、そういった感じとは違って、何かしらその人の中に、しゃんと引緊ったものがある。しっかりした心棒のようなものがある、という感じだった。もう髪は薄くなり、歯はおおかた痛んでおり、眼は鈍っており、腰は少し曲っておるけれど、その身体の中に、精神的というよりも寧ろ肉体的とも云えるほどに、何かしらしっかりしたものが残っている。
その感じが、彼女と逢う度毎に次第にはっきりしてきて、具体的な形となっていった。足許が悪くて危げな歩き方ではあるが、一度坐に就けば、ぴたりと落付いたその腰の据り工合……お辞儀をする時の、両手と膝頭との極り工合……腰の曲った猫背加減の老いた胴体ではあるが、片手を膝に置き片手を長火鉢に差出した、その長火鉢と彼女の身体との軽い即き工合……視力は弱り耳も多少鈍ってはいるが、話の受け応えと共に、首筋のしゃんとした、頭の動き工合と鬢の毛の震え工合……其他、普通の老人に見られないような、何かしらしっかりした心棒が彼女のうちにある。
私は初めのうち、彼女の芸を知らなかった。ところが、彼女の三味線の音を聴いた時
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