での白色、白昼の外光や深夜の闇の中に浮出す、ほの蒼きまでの白色、または月光に輝らし出さるる、薄紫にまがうまでの白色、その白色の花弁の中に、花粉の黄を小さく点出した色彩は、気品そのものの色彩である。それに眸を凝らす時、人は自ら心すがすがしくなって、気品の妙趣を悟るであろう。
 気品には一の渋味があり、而も同時に一つの新鮮味がある。気品は旧守でもなく、また新奇でもない。純粋の気品は、骨董と新考案とを包含し、両者を調和したものである。老と若と旧と新とをよせ集めて、而もその何れでもなく、老と旧との渋味を取り、若と新との新鮮味を取り来った、一種恒久的なものである。古さから来る拮屈傲峨と、新しさから来る自由暢達と、両者を具有してしっくりと落付いたものである。
 この落付きはまた、梅花の樹に見らるる。鋭角度をなしてぐいぐいと曲った古木から、すいすいと若芽を伸し、若きを育つる力を内に蔵した老幹と、老を生かす力で伸び上る若枝とが、しっくりと一つの気分にまとまって、苔生した古い樹皮と、艶々しい新たな樹皮とが、一様に花を出し開かせているのは、まさに気品そのものの姿である。老いたる枝と若き枝とを択ばずに、一様
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