枝子と二人であれこれ相談していると、千枝子がふいに言い出した。自分にたくさん月給をくれるのなら、うまい御馳走を作ってあげるのだが、どうせお粗末な月給だろうから、お粗末なものでよかろうと、笑っている。それで房江はびっくりした。事務員として真面目に研究所の仕事をすることになったとは、聞いていたが、月給のことは、まだ聞いていなかった。而も、千枝子の方から高石さんに頼んだとのこと。そうなってくると、これは家の体面にかかわる。家族同様にしている千枝子が、僅かのことに月給を請求するなどとは波多野家の恥ではあるまいか。それが事実かどうか、高石さんに確かめてほしいし、事実なら取り消して貰いたい。千枝子はただ、心配なことはないとばかり言って、さっぱり要領を得ないとのことだった。
 洋介はその話に興味なさそうに言った。
「それはもうきまってることですよ。そして家の恥でもなんでもないことですよ。」
「わたしには分りません。」と房江は彼の象を見つめた。
 洋介は暫く黙っていたが、突然激しい調子で言った。――それでは、家の生活はいったいどうしているのか。地所を売った封鎖の金を内密に現金に代えたり、野崎さんに物乞
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