。研究所に来ていた佐竹哲夫も呼ばれた。それから房江の発意で、吉村篤史も電話で呼び寄せられた。
波多野洋介もそこに出席しなければならなかった。ところが彼は、井野老人と碁をうちはじめて、殆んど意見らしいものを述べなかった。
「高石さんのお宅へ移した方がいいと思いますね。」
そもそもの初めから彼はそう言うだけで、而もそれが理由づけなしに決定的な響きを持っていた。高石老人の家には、母屋から廊下続きの別棟になってる恰好な室があった。
彼の碁の相手になってる井野老人は、まだ髪の毛が濃く、痩身長躯、たいてい和服の着流しで、何よりも囲碁が好きだった。研究所には可なりの蔵書を貸与しているにも関らず、その移転などは問題にしなかった。
「研究所と言っても、たかが、まあ図書室だからな。何処だろうと、結構だよ。」
全くそれに違いなかった。
然し、研究所には数十名の優秀な研究員が附随していた。それを考えに入れなければならなかった。佐竹はこのことを取り上げた。
「こちらの事情などは、あまり顧慮しなくても宜しいと思います。研究員たちをどういう風に導いてゆくか、それが本質的な問題でしょう。つまり、今後の運営の
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