方法によって、研究所の性格がはっきりして来ることと思われます。」
これには、高石老人が最も賛意を表した。然し、それならばどうしたらよいかということについては、一向に無関心だった。そのようなことは先々の問題だった。ただ、研究員を重視することが気に入ったのである。
「まったく、彼等を糾合すれば、社会的な一つの勢力ともなるよ。」
だから彼は、研究所を自邸に置くことにも不賛成ではなかった。嘗ては惑星的存在として政界に暗躍したことが、その肥満した体躯に、短く刈った半白の髪に、厚がましい顔の皮膚に、隠退してる今でも仄見えていた。そして彼はもう、波多野洋介に将来への期待を失いかけていたのである。
こうした一座の空気を、吉村は敏感に見て取った。研究所の移転を議する立前ではあったが、移転そのものはもう決定してるに等しかった。吉村は黙ってウイスキーを飲んだ。
研究所員の個人個人のことが噂に上った。だが高石老人は僅かな者しか知らなかった。
「山口を御存じでありましたね。」と佐竹は尋ねた。
「あれは知っている。わしのところへも何度か来た。」と高石老人は答えた。
その山口専次郎について、佐竹はおかしな
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