じと覗き出していた。私の視線を迎えて、彼の重たそうな瞼は静にもちあがり、ぼんやりした微笑が眼にまで拡がって穴を隠してしまった。だが、消えてしまったその両眼の穴が、なにか私を冷りとさした。
 私達――彼をも含めて三四人の私達は、少しく酔っていたし、室は薄暗かったが、それでも、彼はあまり口を利かず、これが顔面筋肉の自然の姿態だというようなぼんやりした微笑を浮べていた。後になって、彼の時折の眼付にも私が見馴れてくる頃、彼は議論に加わることもあったが、特に頭に残るような意見も提出しなかったようだ。或る時、何かの機会に、実行の方法が決定しない前の議論は無意味で、議論は実行方法が決定してから後にやるべきものだというようなことを、彼が言い出し、それではまるで議論にも話にもならないと、反駁されたことがあった。それでも彼はやはり、ぼんやりした微笑を以て応じた。彼は何か言葉が足りないか言い方がまずかったのであろう。それともやはり大陸ボケだったのであろうか。
 私達がよく落ち合ったその家は、日本橋裏通りの小さな酒場だった。二つの街路に挾まれた二階家の、表の方は刳貫細工物の問屋になっていて、その裏口の階下、昔
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