が叫んだ。「お父さんが、そんなことはないと言ったよ。」
「お母さんは、ほんとだと言ったわ。ねえ、どっちなの。」
 千枝子は返事に迷った。そこへ、お菊さんが籠を持ってやって来た。子供たちに疣のことを尋ねられると、彼女はにっこり笑って答えた。
「さわりかたが悪いと、疣が出来ますよ。さわりかたがよければ、疣は出来ません。」
 彼女は畠にはいりこんで、キャベツや大根や小蕪をぬいた。
 千枝子はそこにつっ立って、午前の陽光に照らされてる豊かな菜園を、しみじみと眺めた。男のように腰に両の拳をあてて眺めた。それから、お菊さんの後を追って行った。
「わたし、お願いがあるんですの。こちらの畠の仕事を、手伝わして下さいませんか。」
 お菊さんは振り向きもせずに答えた。
「あなたには無理でしょうよ。出来たものを採り入れるのは何でもありませんが、土を掘り返したり、肥料をやったり、作るまでが大変でございますよ。」
「それは、覚悟しております。」
 ひどくきっぱりした調子なので、お菊さんは振り向いた。血の気が引いて透き通ったかと見えるほど緊張した顔に、輝きを含んだ眼が、ひたと見開かれていた。お菊さんは当惑して、無
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