微笑んだ。
「やっぱり、お米が一番なつかしゅうございますね。この四五日、一粒も頂かないんでございますよ。」
 米の配給はどこでも遅延していたが、それでも……千枝子には意外だった。
「何をあがっていらしたの。」
「お魚と野菜ばかりで、もうがっかり致しました。」
 それも、千枝子には意外だった。魚や野菜は波多野家にはひどく乏しかった。
「まったく、不自然で不合理ですわ。」
 その言葉は空《くう》に流れた。お菊さんは機械的に頷いただけで、茶を汲んで出した。
 耕地の片隅で、二人の子供が瓦や石を積んで遊んでいた。男の子は、女の子のように髪の毛を長く伸ばしており、女の子は、男の子のような絣の着物をきていた。千枝子はそちらへ行った。
「何をしているの。」
 兄は立ち上って、ちょっとお辞儀をした。
 朝早く、畠に出てみると、土瓶のように大きな蟇蛙がいた。それの宿にするため、中を空洞にして、瓦や石を積み上げているのである。むずかしくてなかなか出来なかった。千枝子も手伝った。
「ここに、蛙がはいると、怖いわ」と妹がふいに言った。
「なぜなの。」
「蛙にさわると、疣が出来るんでしょう。」
「嘘だよ。」と兄
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