かさばった野菜を持って帰るのである。この往来ははじめ、お花さんやお菊さんがしていたが、いつしか千枝子が進んで引き受けてしまった。袋の手触り、米にせよ、野菜にせよ、そのなにか新鮮な手触りが、書物などとは別な快感を与えてくれた。
 耕地はみごとだった。瓦礫の畦で幾つかに仕切られ、周囲にはやはり瓦礫の砦が築かれていて、全部で三百坪ほどもあった。その半分以上に、各種の野菜が植えられていた。蚕豆や莢豌豆にはかわいい花が咲いており、キャベツの大きな巻き葉が出来かかっており、時無し大根の白い根が見えており、胡瓜の髯が長く伸びており、其他さまざまな野菜類が、各自の色合と形とで日光に輝いていた。種類が多いだけに一層豊かに思われた。空いてる地面には、やがて薩摩芋が植えられることになっていた。いくら多く作っても、知人たちに分配するにはまだ足りないそうだった。麦を蒔いていないことが自慢で、地面を長く占領し肥料を多く吸収する麦は家庭園芸の範囲外のものとのことだった。
 このみごとな菜園を控えてる小屋へ、千枝子が米を一升ばかり届けると、お菊さんはその米を両手ですくってさらさらとこぼし、またそれを繰り返して、淋しく
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