それを箒で殴りつけようとしたとたん、私たちは殆んど息がつまった。強烈な臭気、眼もあけられず顔も向けられない臭気だ。もうこちらの負けで、猫の出入口を開けてやるばかりでなく、玄関の扉を開いて空気の流通をはからねばならなかった。
イタチの最後っ屁ということは聞いていたが、これをまともに嗅がされたには驚いた。
猫は今でも、その出入口から通行している。よその猫も時折はいって来る。私の家の白猫はじっさい喧嘩に弱い。
私はいろいろな猫を飼ってみた。私の生れは寅歳で、寅歳生れの人の家には猫は育ちにくいとの巷説があるが、それは嘘だ。私の家には、トラ猫もいたし、ブチ猫もいたし、黒猫もいたが、今では、異色の差毛が一本もない純白ものばかりを飼うことにしている。いくら猫は清潔ずきだとしても、やはり泥や煤に汚れることがあるし、白猫が最もきれいである。その代り、かかりつけの野口猫医師の説によれば、白猫はどうも体力が弱いそうである。
白猫が今、私の家には三匹いる。日本種ばかりである。嘗てアンゴラ種の猫を飼ったことがあるが、アンゴラだのペルシャだの長毛のものは、空気の湿度の高い日本では聊か無理だ。短毛のシャムは
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