屋建築費だけを強奪し、そして出来上ったものなのである。設計などすべて友人たちに任せたが、ただ二つ私は註文を出した。一つは書斎の片隅の三畳の畳敷きで、一つは前述の猫の出入口だ。ロザリヨの辰野隆君や故人久能木慎治君などは、猫と言ったってどんなネコのことやら、とからかったが、もとより約四寸四角だから女性などははいれない。
ところが、或る深夜、異様な物音がした。私の家の猫はだいたい喧嘩に弱く、よその猫から追っかけられて逃げ帰ることが多いが、その夜はちと気配が違う。家の中にまで怪しい唸り声がする。私はまだ起きていたので、そっと立って行き、猫の出入口を他物で塞いだ。家の可愛い猫をいじめる怪しからん奴、少し痛めつけてやれというつもりだ。子供たちや女中まで起き上って来た。玄関の方に唸り声がする。箒や棒切れなど持ち出して、応援に行って見ると、相手は猫でなく、イタチだった。イタチならば、思いきって痛めつけてやれというので、その深夜、家の中でイタチ狩りが初まった。だが、こちらが怪我してはつまらないし、先方は自由自在に飛び廻る。室や廊下を右往左往したが、遂にイタチも疲れてか、玄関の物置棚の上にうずくまった。
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