う犬にとって致命的です。猫には、体臭というほどのものは殆んどない。その上、隙さえあれば、体の汚れを嘗め清める。更に感心なことには、体を嘗めているとどうしても脱毛を呑み込むし、それが胃袋にたまるので、時々、笹の葉やそれに類する草の葉をわざと食い、それで食道や胃袋をくすぐって、毛を吐き出してしまう。これは人間にも出来ない芸当だ。毒物に対しても極めて敏感で、誤って呑み込んでもたいてい自分で吐き出してしまう。このような点でも、犬の方がずっと野蛮ですよ。」
 犬の先生――「それは、猫の方が本能的に敏感だということに過ぎないし、人間の住宅に侵入してきたのも、単に性質がずるいということに過ぎない。飼養動物としては、猫の方は野性的だが、犬の方は人間の生活によく順応してつまり、進化の度が高いと言えるでしょう。」
 猫の先生――「猫は本来立派だから、進化の必要がなかったのです。第一、犬は全色盲ですよ。全色盲ということは、つまり灰色の世界に生きていることで、情けないじゃありませんか。」
 犬の先生――「え、犬が色盲ですって……。」
 ここで、美術学校教授の犬の先生は、止めを刺された形である。もっとも、犬が色
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