ですか。徹頭徹尾、奴隷根性だ。気が向こうと向くまいと、用があろうと無かろうと、いつでも主人に尻尾を振って御機嫌を取ろうとする。本能的に、骨の髄まで、奴隷根性がしみこんでいる。いや、奴隷根性を除いては、犬自体の存在はない。犬は忠実だと言われるけれど、奴隷の忠実なんかに、いったい何の意味がありますか。愚劣と無自覚の標本にすぎない。」
犬の先生――「いや、犬はちゃんと自分の地位を知っています。智慧もあります。自分の職分を心得ています。自分の小屋の伏床に寝ね、時としては困苦欠乏にも耐え、盗賊などの外敵を防ぎ、人間の散歩のお供もする。猫にこそ、何の自覚もありません。鼠を捕るのはただ本能に由るだけで、それ以外、いったい猫に何の職分がありますか。」
猫の先生――「そんなことは、人間の功利心が言わせる言葉です。凡そ家畜動物の中で、猫ぐらい人間に近い生活をしているものがありますか。人間と同じ家屋の中に住み、同じ食物を食べ、同じ布団の中に眠り、而も跣足で屋内屋外を濶歩するなんか、人間以上だ。それというのも、猫は最も清潔な動物だからです。犬の臭気、水浴をしても温浴をしても決して取れない臭気、あの体臭はも
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