調べて行ったそうである。「少し縁談のことで。」とその男は云ったそうである。私がいつも火金両日にやって来て十二時になると碁の勝負もそのままにして立上るのを不審に思っていた坂口は、そしてまたその頃私が急に元気よくなったのを怪しんでいた坂口は、こうつけ加えた。「君も少し用心して身を慎んだがいいね。」
 何だか様子がおかしいので、私はそのことを帰りに村瀬に話してみた。すると村瀬は、一寸考えていたが、はたと膝を叩いた。
「分った。実は僕の方にもそういうことがありましたよ。変な男が僕の行く球屋へも来ましてね、下手な球をつきながらそれとなく、僕の身の上を聞いて行ったそうです。縁談だと云ってさんざんお上さんに冷かされた所です。」
「へえ、君の方もですか。」
「君これはうっかり出来きせんぜ。僕達は屹度誰かに悪意を持たれてるに違いありません。余り種々な人に無作法な真似をしましたからね。」
 考えてみると一々思い当るふしがあった。
 私達はその夜またカフェーに寄って、麦酒を飲みながら種々善後策を講じた。もう疑う余地はなかった。気味悪いようでも、また痛快なようでもあった。
 然しその男は果して何者だろうという
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