でもよろしい。とにかく、赤い鳥居の列が無くなってしまった。
「それでも、お蝋所に祈りに来る人たちは絶えない。鳥居が無くなったことなど、彼等の祈念には何の影響もないのだ。お蝋所は、一種の洞窟みたいなところで、狐格子が立てきってあり、それに、紅白ないまぜの布や、女の長い髪の毛や、何だか分らない紙片などが、結びつけられていて、中は陰々と、薄暗い。そこで僕は思った。その狐格子をも取り除いてしまったら、どうであろうか。彼等信仰者たちは、やはり祈りに来るであろうか。きっと来るに違いない。ところで、そこにあるのは何か。鏡か木彫か石彫か陶器か、それも恐らくは下らないもので、つまりは一塊の石に過ぎないだろう。その一塊の石に、彼等はやはり祈念を凝らすだろう。そうなると、一塊の石に人の祈念がじかに連結する。これはどういうことだ。原始時代に立戻っただけのことだというのは、一応の解釈に過ぎなくて、救済にはならない。」
「救済しなくてもいいよ。」と僕は焼酎を味わいながら言った。
「赤い鳥居の列に、黄色い銀杏の葉が散りかかって、その下を若い女がしとやかにくぐってゆくところなんか、いいじゃないか。」
そういう情趣に
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