の血が引くと、薄い皮膚が透き通って見えるほどに緊張した。波多野はへんに眼をしばたたき、それからウイスキーと水をコップに注いで、彼女の前に差出した。
「お飲みなさい。」
「あら、わたくし……。」
「構わないから、飲んでごらんなさい。それから、煙草もどうです。」
 彼女はちらと波多野の顔を見たが、また頬に血を漲らして眼を伏せた。眼の前に、波多野のシガレットケースがあった。彼女はそれにちょっと美しい指先で触れたが、そのままそれは押し返して、コップを取上げ、唇をつけた。貝殻のような爪が光った。
 彼女がコップを置くのを待って、波多野は手を伸べて握手した。彼女は素直に握手に応じた。波多野は秦にいった。
「秦君、あらためてこのひとを紹介しよう。魚住千枝子といって、僕の母の遠縁に当るひとだ。長く僕の家に同居している。僕は君のおかげで、このひとをはじめて見出したような気がする。これから、このひとも、僕等の仲間に引張りこむから、承知しておいてくれよ。」
 秦はなにか腑に落ちないような面持ちで、ただ頷いた。
 波多野はグラスを幾杯かあけた。千枝子もそれに応ずるようにコップをあけた。
 波多野は立ち上った。
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